誘導電動機の始動電流について(瞬時ピーク突入電流と最大始動電流の違い)
目的
一般的に誘導電動機の始動電流は定格電流値の5~7倍の電流が流れるとされているが,あくまでもそれは最大始動電流(Locked rotor current)の実効値を指しており,運転開始直後に流れる瞬時ピーク突入電流(instantaneous peak inrush)に対する説明は日本語サイトではあまり紹介されていない。
本記事は米国エネルギー省にて掲載されている記事内容と関連するサイトの記事を元に瞬時ピーク突入電流(instantaneous peak inrush)及び最大始動電流(Locked rotor current)の違いを日本語で纏めたものである。
誘導電動機の始動電流に対する説明
全米電気機器製造業者協会(The National Electrical Manufacturers Association,NEMA)は,始動電流は"瞬時ピーク突入電流(Instantaneous peak inrush)"及び"最大始動電流(Locked rotor current)"で構成されていると説明している。
瞬時ピーク突入電流(始動電流の最大値)は電動機が始動した際の最初の半サイクル(交流電源サイクルの半周期)の間で生じ,その電流値は電動機の負荷電流の10倍以上になることもあり得る。電動機の回転が始まると電流は最大始動電流まで減少する。その値は定格電流の6倍から8倍程度になり得る。この最大始動電流は実効値であることに注意する必要がある。
これらを図で纏めると以下の通りとなる。
米国エネルギー省は,始動器によって電動機が制御されており,ブレーカに瞬時遮断が設定されているケースにおいて,高効率の誘導電動機の始動時における瞬時ピーク突入電流によって望まぬブレーカ遮断が生じる可能性を指摘している。
この望まぬ遮断は,始動器で電動機を起動した直後の交流電源の半周期で発生する瞬時ピーク突入電流が瞬時遮断の設定値を上回ることで生じる。また,遮断は毎回発生するとは限らず,遮断が生じた後に再試行した場合は正常に始動することもある。
同出力の電動機で高効率と低効率の両者を比較すると,高効率の方が最大始動電流が高い傾向にある。また,高効率モータの始動力率が低いことで,瞬時ピーク突入電流と最大始動電流の比率(瞬時ピーク突入電流/最大始動電流)は高くなる傾向にある。
参考文献
Avoid Nuisance Tripping with Premium Efficiency Motors(U.S. Department of Energy)
https://www.energy.gov/sites/prod/files/2014/04/f15/avoid_nuisance_motorsys_ts6.pdf
What is inrush current in an AC motor and why does it matter?
https://www.motioncontroltips.com/what-is-inrush-current-in-an-ac-motor-and-why-does-it-matter/
電気専門用語集(WEB版)(電気学会)
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