三相誘導電動機の出力式を導出する(電験3種平成30年機械問3)

2021年8月19日

目的

この記事では電験三種の過去問(平成30年理論の問3)にて出題された問題を解くと共に三相誘導電動機の出力式を導出する過程を示す。

公式を暗記するのではなく,導出過程に興味のある方の参考になれば幸いである。

電験三種 平成30年理論の問3

定格出力11.0kW,定格電圧220Vの三相かご形誘導電動機が定トルク負荷に接続されており,定格電圧かつ定格負荷において滑り3%で運転されていたが,電源電圧が低下し滑りが6%で一定となった。
滑りが一定となったときの負荷トルクは定格電圧のときと同じであった。
このとき,二次電流の値は定格電圧のときの何倍となるか。
ただし,電源周波数は定格値で一定とする。

答え:1.41

三相誘導電動機の等価回路を描く

三相誘導電動機を電源に接続すると電動機巻線に電流が流れる。
この電流により回転磁界が発生すると,回転子に起電力が生じる。

起電力の電圧及び周波数は,回転磁界と回転子の速度差(滑り)によって定まる。
速度差(滑り)が大きければ,回転子の電圧及び周波数は増加し,速度差(滑り)が小さければ,電圧及び周波数は減少する。

*実際の誘導機の回転機原理を示した動画を別途下記に示す。

⇒⇒⇒【誘導機原理】家で簡単に実験できるアラゴ―の円盤/円板

上記の特徴を踏まえ,1相分を等価回路と電流の導出式は次の通り表すことが出来る。

$$I_{2}=\frac{sE_{2}}{\sqrt{r_{2}^{2}+\left( sx_{2}\right) ^{2}}}$$

 

一次側回路は電源電圧Vが印可され,回路中における抵抗はr1,リアクタンスはx1にて表せる。

二次側回路における起電力は,前述の通り回転磁界と回転子の速度差(滑り)によって生じるため,滑りsに比例しているのでsE2で表せる。
周波数も滑りsに比例するので一次側周波数fにsを乗ずる形のsfで表せる。

二次側回路における抵抗はr2で表される。
また,リアクタンス成分は二次側の起電力の周波数に比例することからsX2として定めることが出来る。現状の回路では滑りsにより変動する要素が多いので,二次側回路に流れる電流I2の算出結果が変わらないよう回路を変形する。つまり,分母及び分子に対しsを除する。
(電気回路は回路に電圧を印可した結果として得られる解は電流となるため)

$$I_{2}=\frac{E_{2}}{\sqrt{\left( \frac{r_{2}}{s}\right) ^{2}+\left( x_{2}\right) ^{2}}}$$

現状の二次側回路の抵抗に滑りsが含まれているので,更に二次側回路を変形していく。抵抗の総和が変化せぬよう,二次側抵抗r2とその他の抵抗に分離する。

上記に示す変形後の二次側回路の抵抗r2で消費される電力は銅損となり,抵抗(1-s)/s・r2で消費される電力は誘導機出力として以下の数式で示される。

$$P=I_{2}^{2}\frac{1-s}{s}r_{2}$$

なお,回路及び数式は単相回路にて検討しているため,三相誘導電動機の出力であれば以下の通り3倍することで得られる。

$$P_{3phase}=3I_{2}^{2}\frac{1-s}{s}r_{2}$$

また,得られた三相誘導機出力からトルクを導くにはP=ωTの公式から次の通り求めることが出来る。

$$T=\frac{P_{3phase}}{\omega }=\frac{1}{2\pi f}\cdot 3I_{2}^{2}\frac{1-s}{s}r_{2}$$

※fは回転子の1秒当たりの回転数を意味する

詳細は下記記事を参照頂ければ幸いである。

⇒⇒⇒【P=2πTNを導く】トルクと回転数から出力を求めるには

電験三種 平成30年機械の問3を解く

問題文で示された条件を整理すると以下の表に纏めることが出来る。

電源電圧が変化する前と後を比較するとトルク[N・m]が等しいことから,それぞれのトルク算出式を等号で結ぶことが出来る。

電源電圧変化前
$$T=\frac{P_{3phase}}{\omega }=\frac{1}{2\pi (1-0.03)f}\cdot 3I_{2}^{2}\frac{1-0.03}{0.03}r_{2}$$

電源電圧変化後

$$T=\frac{P’_{3phase}}{\omega }=\frac{1}{2\pi (1-0.06)f}\cdot 3I_{2′}^{2}\frac{1-0.06}{0.06}r_{2}$$

電源電圧変化前と電源電圧変化後を等号で結ぶと…

$$\frac{3I_{2}^{2}\frac{1-0.03}{0.03}r_{2}}{2\pi (1-0.03)f}=\frac{3I_{2′}^{2}\frac{1-0.06}{0.06}r_{2}}{2\pi (1-0.06)f}$$

問題文に戻ると,「電源電圧が低下した時の二次電流の値は定格電圧のときの何倍となるか」とのことなので以下の数式より答えを求めることが出来る。$$\frac{I_{2′}^{2}}{I_{2}^{2}}=\frac{\frac{3\frac{1-003}{0.03}f_{2}}{2\pi \left( 1-0.03\right) f}}{\frac{3\frac{1-006}{006}r_{2}}{2\pi \left( 1-0.06\right) f}}=2$$

$$\frac{I_{2′}}{I_{2}}=\sqrt{2}≒1.41$$