コイル電圧は-L*di/dtか,それともL*di/dtか
本記事を書くに至ったきっかけ
電気回路の問題を解く際に,コイルにかかる電圧を"VL=L*di/dt"として計算しているが,
ふと,コイルには"VL=-L*di/dt"の逆起電力が発生すると習ったことを思い出し,
マイナス符号を付するケースと付さないケースの二つが存在し,その使い分けが分からなくなった。
本記事では,コイルの電圧にマイナスが付されるケースと付されないケースが,
それぞれ,どのような時に適用されるのかを整理する。
なお,本記事では電流の変数I,iが混在しているが,
いずれも時間(t)によって変動する同一の電流値の瞬時値として扱うことご容赦頂きたい。
コイルに電流を流した時の挙動について①
まず,この疑問を整理する上でコイルに電流を流した時の挙動を
下図の直列RL回路に直流電圧を印加したケースを考える。
スイッチは最初OPENとし,t=0[sec]にてCLOSEさせる。
この回路の挙動を各ステップ毎に分解すると
1.電圧がコイルに印加される。t=0[sec]
2.コイルに電流が流れようとする。
3. しかし,コイルは電流を現状維持する特性がある。
本ケースではt=0の時は,SW=OFFのため,もともと流れている電流量が
ゼロだったため,それに対し,電流が流れるという変化が
生じることから,電流が流れないような方向に印加電圧と同じ大きさの
逆起電圧が発生する。(レンツの法則)
4.時が経ち,徐々に回路中の電流変化をコイルが受け入れことで
逆起電圧が緩和され,電流が増して流れていき,
最終的には逆起電力がゼロとなり,電流 I=E/Rが流れる。
なんか,コイルはツンデレのような挙動を見せますね。
コイルに電流を流した時の挙動について②
次にコイルを電圧源とみなして,等価回路を描いて整理すると,t=0[sec]の時はこうなる。
電流が流れる方向に対して,電圧が逆にかかっている。
これがまさしくコイルの逆起電圧というものなのである。
つまり,"V=-L*di/dt"とマイナス(-)が付されているのは,
流れる電流の向きに対して逆の起電力を発生させているという
意味合いを込めたものであることが分かる。
ちなみにt=∞[sec]の時は逆起電力が完全に消失し,単に抵抗成分Rのみが
直流電圧に接続されることになる。
コイルに電流を流した時の挙動について③
最後にこの回路における電圧と電流の関係式を示すと
E = RI + L*di/dt
として表される。
この数式は回路中の電圧源Eとそれ以外の素子の電圧降下の合計が
等しくなる電気回路の特性から立式される。(下図参照)
※ 電圧源のマイナス側を基準電位0Vとしている
つまり,この数式中でマイナスが付されていない(“V=L*di/dt"と表現されている)のは,
コイルで発生した起電力の方向が,電圧降下の量を測る方向と同一だからだ。
蛇足となるが,この数式を展開すると電流値は以下の通り求めることができる。
E = RI + L * di/dt
↓ (ラプラス変換)
i(t) = E/R (1 – e ^ -R/L * t)
横軸を時間とし,縦軸を電流値にとると以下のグラフが得られる。
時間が経過すると共にコイルの逆起電圧が減少していき,それに応じて電流が流れる様が分かる。
なお,各変数は以下の通り設定している。
E=100[V],R=10[Ω],L=1[H]
まとめ
コイルの起電力公式"V=-L*di/dt"にマイナス(-)が付されているのは,
流れる電流の向きに対して逆の起電力を発生させているという
意味合いを込めたものだからだ。
一方でコイルを含む電気回路の公式でコイルの電圧が"V=L*di/dt"とマイナス(-)が付されていないのは,コイルで発生した起電力の方向が,電圧降下の量を測る方向と同一だからだ。
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