【回路図で解説】アナログ絶縁抵抗計(メガー)の原理

2020年2月8日

記事の目的

この記事では絶縁抵抗計(メガー)の誕生から今の形に至るまでの歴史を簡単に触れ,アナログ絶縁抵抗計の原理を書籍及びネットで調査した内容を纏める。

絶縁抵抗計(メガー)とは

直流電源を回路(電源系統やモータなど)に印加し、その回路の絶縁抵抗を計測する計器である。計測者はメガーより得られた絶縁抵抗の値を確認し、その回路が健全であるか否かを基準などに従って判断する。

メガーの歴史(発明から現在に至るまで)

以下はインターネットにて収集した情報を元に筆者が纏めたものである。

1889年:英国の電気技師シドニー・エバーシェッドにより絶縁抵抗計が発明される

1903年:英国ではMegger社よりMegger(メガー)が商標登録される
初期のメガーは手回し発電機部と測定部に分かれていた

1923年:世界で初めてAVOメーター(マルチメータ)がMegger社より発売される
※AVOとは電流(Ampere),電圧(Volt),抵抗(Ohm)の頭文字から取ったもの

1920年代:日本では横河電機や桑野電機などが絶縁抵抗計の国産化に成功

1932年:英国では手回し発電機と測定部がフェノール樹脂(ベークライト)の一つの箱に収まった"Wee megger"が発売される

1933年:日本では日立にて手回し発電機と電圧測定が一体となった"E12型"絶縁抵抗計が販売される

1962年:日本では松下電器産業より自動絶縁計BAM-250HA/500HAが発表される
主要部分の直流高電圧をDC-DCコンバータ(トランジスタ昇圧回路)により従来型より小型化されたものである

その後:マルチレンジ型やデータメモリなどを備えたデジタルタイプへと進化

次項では1932年に発売されたWee meggerに使用されているアナログ絶縁抵抗計の仕組み及び1962年より日本で販売開始された自動絶縁計の原理を解説する。

絶縁抵抗計(メガー)の動作原理について

本項ではメガーの動作原理を述べる。

発電部と計測部に別れており,測定対象に直流電圧を印加し,絶縁体に僅かながらに流れる微弱電流を計測し,抵抗値を求めるものである。

手回し発電機付き絶縁抵抗計の動作原理

以下にWee meggerのような手回し発電機付き絶縁抵抗計に使用されている回路を示す。ここでは手回し直流発電機は直流電源として記載している。計測部には2つのコイルが設けられており,1つは既知の抵抗Rpと直列に接続されており,もう1つは測定対象Rxと直列に接続されている。

最初の図は既知抵抗と直列に接続されているコイルに電流Ipが流れた際,回転方向に生じる力Fpと計測対象Rxと直列に接続されているコイルに電流Ixが流れた際,回転方向に生じる力Fxが釣り合い,指針がちょうど真ん中で止まった状態を示している。

次の図は指針が真ん中に停止している初期状態から短絡箇所(Rx=0)を計測した図である。Rxに流れる電流が大きいため,Fx > Fp となり指針が0方向に向かう。Fx = Fpと力が釣り合うところで指針は0を指す。

次の図は指針が真ん中に停止している初期状態から絶縁体(Rx=∞)を計測した図である。電流はRxには流れず,Rpにのみ流れるため,コイルに働く力はFpとなり指針が∞方向に向かう。指針が機械的稼働限界に到達し,そこで停止し∞を指す。

Wee meggerのような手回し発電機付き絶縁抵抗計はそれぞれのコイルに流れた電流からフレミング左手の法則により生じた力が均衡した箇所が計測値となる計器が使用されている。この計器は比率計形計器(Ratio Meter)と呼ばれる。

この絶縁抵抗計のアナログ計には,渦巻ばねが使用されておらず,計測が完了したら∞に指針が戻るような機構が付いていないことが特徴である。
この絶縁抵抗計は大型であり,計測時は一定の速度以上で手動で発電機を回し続ける必要があったことから,プローブが計測対象に固定できない場合は,計測者は二人必要となる。1950年代の日本でも製造,販売されていたことを確認している。

自動絶縁抵抗計の動作原理

1960年代になると,トランジスタを用いたDC/DCコンバータが内蔵された絶縁抵抗器が発売されるようになった。松下電器から自動絶縁抵抗器という名前で販売されている。この『自動』という意味はこれまで手回し発電機で電圧を生じさせねばならないのに対して,スイッチ一つで乾電池からDC/DCコンバータを介して高電圧を生じさせることが出来ると言う意味なのだと推察する。

これにより発電機を組み込む必要がなくなり計器自体が小型となり,更に手回しをする手間もなくなり測定者が一人で足りるようになった。
2020年の今でもヤフオクなどでよく見かけることができ,ジャンク品は1000円程度で入手することができる。下記が基本的な回路図となる。

DC/DCコンバーターで得られた高電圧を計測対象Rxに印可し,得られた電流値Ixを元に計測対象の抵抗値を求める。このアナログメーターには可動コイル型計器が使用されている。

可動コイル型計器の仕組みを簡単に説明すると,フレミング左手の法則により可動コイルに流れた電流の大きさに比例した力とそれに反抗する渦巻ばねの力が釣り合った箇所が指示値となる。つまり,目盛は指示針は電流の大きさに比例した振れとなるため,目盛は平等目盛りとなる。

電流計であれば平等目盛が一般的に使用されているが,抵抗計は幅広い抵抗(例えば0Ωから100MΩ以上)を計測する必要があることから,対数回路を組み込むことにより,対数目盛りを適用し,幅広い計測値を表現することが出来る。よって上記の回路では対数変換回路を経て出力された電流Log Ixを可動コイル型電流計に入力することで絶縁抵抗値を得ているのである。

参考文献

<書籍>

知っておきたい計測器の基本 (著者:巻佳壽美,大内繁男)

はじめて学ぶ電気電子計測(著者:松川真美,小山大介)

<ホームページ>

計測機器販売店会様_電気計測機 ヒストリカル エピソード
http://www.jemida.jp/column/column02-06.php

Youtube_~1940 “Wee" Megger Insulation Tester and Ohmmeter by Evershed & Vignoles
https://www.youtube.com/watch?v=ULQ-vumIj1s

Evershed & Vignoles “Wee" and Series 3 Megger
http://www.richardsradios.co.uk/megger.html

Wikipedia_Megger Group Limited
https://en.wikipedia.org/wiki/Megger_Group_Limited

日立評論_無限位調整装置を必要としない絶縁抵抗計(矢内 博様)
http://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1955/ex10/1955_ex_10_16.pdf#search=’1955_ex_10_16.pdf’

技術

Posted by Gin