補償器(減電圧)始動法による始動電流が減電圧比の2乗に低減する理由

記事の目的

始動電流を抑えるため,始動補償器による減電圧で大型電動機を始動することがある。
始動電流は減電圧比(二次電圧/一次電圧)の2乗に低減すると言われているが,その理由について迷いなく答えられる人は少ないのではないだろうか。

この記事では「なぜ始動電流が減電圧比(二次電圧/一次電圧)の2乗にまで低減するのか」について簡易的な回路を描くと共に解説を行う。

そもそも始動補償器とは

始動補償器は三相の単巻変圧器(オートトランス)で構成されている。
単巻変圧器とは一次巻線と二次巻線に共通な部分を持つ変圧器のことである。等価回路は下図の通りであり,左側が昇圧変圧器,右側が降圧変圧器の等価回路となる。
始動補償器には右側の降圧変圧器を使用する。

単巻変圧器に関する記事を別途投稿しています。興味ある方は下記ご参照ください。

⇒⇒⇒単巻変圧器の等価回路から自己容量Ps及び線路容量Plの関係式を導出するには

始動電流は減電圧比(二次電圧/一次電圧)の2乗に低減する理由について

まず,比較対象となる一般的なDOL(直入始動)の回路を示す。電源(三相440V)が誘導電動機(Δ接続)に接続されており,線電流として始動電流Iが流れる。

次に本題である始動補償器(単巻変圧器)による減電圧始動を考えてみる。
電源(三相440V)と誘導電動機(Δ接続)の間にY(Star)接続された単巻変圧器を追加する。減電圧比は0.6倍とする。

減電圧比は0.6倍なので誘導電動機に印可される電圧は440Vx0.6となる。また,始動時における始動電流もI[A]x0.6となる。

ここで始動電流はI[A]x0.6であると早合点する人がいるかもしれないが,瞬時電圧降下の検討など一般的に求める電流は始動補償器の2次側ではなく1次側である。

変圧器には以下の関係式がある。

一次側電圧[V] × 一次側電流[A] = 二次側電圧[V] × 二次側電流[A]

一次側始動電流をI1とすると三相回路では以下の等式が得られる。

√3 x 440/√3 x I1 = √3 x 440/√3 x 0.6 x 0.6I

I1 = 0.62 I

以上より始動電流が減電圧比(二次電圧/一次電圧)の2乗に低減することが示せる。