[IEC?/ISO?/JIS?]規格化の目的と各規格の位置付け

本記事を纏めた動機

技術職をしているとJIS,IEC,ISOという規格を目にすることが多い。仕事ではその一つ一つの規格内容を調査することはあっても,その規格がどういったものなのか,本当に理解できている人は少ないのではないのだろうか。筆者もその一人であった。
本記事では標準化とはどういうものかに触れながら,JISやIECなどの規格の位置づけを述べると共に各規格がどういったもので,どこが規定しているのかを纏めた。
本記事を一読されれば,日ごろ用いている規格に対する見方が少し変わって見えてくるはずである。

そもそも規格とは何なのか。規格化する目的について。

円滑に目的を達成できるようにするため

もし,あなたが物を作ろうとしていて,特定のサイズのオネジが必要だったとしよう。
その時,ホームセンターで買うにしても,誰かから譲ってもらうにしても,例えば「M3x50」とサイズを伝えれば,目的に見合ったオネジを容易に得ることが出来る。

ここで,もし世の中がネジサイズについて規格化されていない世界であったらどうだろう。
あなたは,オネジの形状を描き,必要とする寸法を一つ一つ細かく指定しなければ,製造業者はあなたのニーズに見合ったネジを提供することは決して出来ない。
場合によっては製造業者にあなたの製作現場まで見に来てもらうかもしれない。

ネジ一本でとんだ手間である。

規格化すれば,皆が共通の認識を持つことができ,円滑に目的を達成することが出来るのである。

技術を信頼して貰えるようにするため

最近は色んな国の製品が身の回りに存在する世の中となったが,
良く知らない国で製造した物を買うとき,その品物がちゃんと機能するのか心配にならないだろうか。

そんな時に「JIS規格に準拠」や「国際規格IEC/ISOに準拠」とか記載あれば不安は払拭され,安心して物を購入することが出来るのである。

競争を有利に進めるためのツール

現在は国際社会であり,企業は国内でのシェアのみならず,海外への展開を考えなければ生存と発展は見込めない。
経済産業省や国内団体の標準化に関するホームページを訪問すると,ISO/IECを意識していることが分かる。
国内で発案した規格が国際規格に採用されれば,先行してその規格に沿って生み出しておいたサービスやモノをそのまま世界に売り込むことができるメリットがある。
更に世間には公表していないが,これから売り出そうとしているサービスやモノを普及させるための土台にもなり得るのである。
ただ,何が何でも国内発の規格を国際標準とするのが良いという話でもない。標準化には多くの労力が必要であり,その労力に見合ったリターンが見込めなければ実行に移す意味がない。
それから,標準化すると,全世界に対してその内容をオープンすることになる。標準化しようとする案文の中に独創的なものがあれば,それまでその内容を知らなかった相手への優位性も失われることになる。
また,自分が準備している標準化案と似た内容を相手も準備していると判明した場合は先手を取られないように,動く必要が有る。
と,筆者が頭の中だけで思いつくケースだけでも色々あることが分かる。まさに標準化は自国の意図が読まれないように,有利に国際競争を進めていくための陣取り合戦の戦場の一面も有しているのだと思う。
では,そんなことは面倒だから標準化は無視するというスタンスだったらどうだろうか。確かに規格自体には絶対これを守れという強制力は存在しないが,法律によってその強制力を定められることがある。
規格には,その標準を必ずしも守る必要はなく,モノ・サービスを作る側で判断を任せる「任意規格」と作る側に絶対に守らねばならない「強制規格」の二つが存在する。
日本の国家規格であるJISも任意規格と言われているが,ひとたび法律で「JIS****に準拠すること」と定められるとそれを絶対に守る必要が出てくる。
また,世界貿易機関WTOのTBT協定では以下の如く定められており,WTOに加盟する中央政府機関に対して,「強制規格を必要とする場合,関連する国際規格が存在するとき,またはその仕上がりが目前の時は当該国際規格又はその関連部分を強制規格の基礎として用いること」と定めている。なので,WTO加盟国である日本としては国際標準の動向を常にウォッチしなくてはならないのである。
以下,WTOのTBT協定で上記を定めている原文及びその原文に対する和訳を引用する。
Article 2: Preparation, Adoption and Application of Technical Regulations by Central Government Bodies
With respect to their central government bodies:
2.4    Where technical regulations are required and relevant international standards exist or their completion is imminent, Members shall use them, or the relevant parts of them, as a basis for their technical regulations except when such international standards or relevant parts would be an ineffective or inappropriate means for the fulfilment of the legitimate objectives pursued, for instance because of fundamental climatic or geographical factors or fundamental technological problems.
第二条 強制規格の中央政府機関による立案、制定及び適用
中央政府機関に関し、
2.4
加盟国は、強制規格を必要とする場合において、関連する国際規格が存在するとき又はその仕上がりが目前であるときは、当該国際規格又はその関連部分を強制規格の基礎として用いる。ただし、気候上の又は地理的な基本的要因、基本的な技術上の問題等の理由により、当該国際規格又はその関連部分が、追求される正当な目的を達成する方法として効果的でなく又は適当でない場合は、この限りでない。

各規格の位置づけ

世の中にある全ての規格は以下のピラミッドのいずれかに該当する。頂点に近づくほど適用範囲が広くなり,底辺に近づくほど適用範囲が狭くなる。

ここで気を付けたいのが頂点に近づくほど優れている規格という訳ではない。その規格を適用した場合,その影響を受ける人々が多いということだ。

三角形の頂点は国際規格であり世界標準として認められた規格である。IECやISOがそれに該当する。

上から2番目の層は地域規格でありCEN,CENELEC,ETSIがある。日本にいるとあまりなじみがないが,欧州の地域規格である。

上から3番目にようやく国家規格が位置する。日本人であれば誰もが一度は耳にしたことのあるJISはここで登場する。以降は企業団体で規格化されたもの,会社で標準化されたもの,個人で守っているものが続く。

ISOとは?IECとは?JISとは?JEMとは?JECとは?

日本で耳にする規格名及び発行団体名に対する説明を以下の表に纏めた。概要を掴むために参考として頂ければ幸いです。

参考文献

JISとは_日本規格協会グループ様
https://www.jsa.or.jp/whats_jis/whats_jis_index/

国際標準化がなぜ必要なのか_J.IEE(藤田 昌弘様)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1994/117/7/117_7_447/_pdf

(標準化教室)私たちの暮らしを支える日本と世界の「標準化」(経済産業省)

https://www.jisc.go.jp/KIDS-HP/pdf/demae-kousen2.pdf

JISCについて_日本産業標準調査会
https://www.jisc.go.jp/jisc/index.html

JEC(電気規格調査会)

http://www2.iee.or.jp/ver2/honbu/jec/02-about/pdf/jec_pamphlet.pdf

国際認証制度と今後の展望

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejf/66/2/66_2_261/_pdf

IEC事業内容

https://www.iecapc.jp/F/gaiyou/2019_gaiyou_ippan_1.1.pdf

標準化実務入門

https://www.meti.go.jp/policy/standards_conformity/files/2015text_zenbun.pdf

国際標準化を巡る国内の動向

https://www.jstra.jp/html/PDF/METI_presentation.pdf

技術, 解説

Posted by Gin